「大事なZIPファイルだったから、ついパスワードでロックしてしまったんですが、パスワードがわからなくなってしまいました。」
毎年そう思うので自分に学習能力がないのかと疑ってしまうが、今年の残暑はやはり長いと感じる。
それに台風が接近しているせいか、この取調室はまるでサウナだ。
さっきカツ丼を2つ頼んだはいいが、全く食欲がわかない。それもそうだ。この世にサウナで飯を食う奴がいるだろうか?
しかしなにより不快なのは、この目の前にいる重要参考人である。
大事なものに鍵を掛けるのは人間としてごく当たり前の行動だが、その解除方法を忘れるということは大事ではないということを証明しているのではないのか?
なんだこのパラドックスは。貴様は何故俺の不快度指数を上げるのだ。
このファイルの中身は、俺が20年追ってきたアイツの逮捕を可能にするリーサルウェポンに違いない。
しかしどうだ、俺のこの眼の前にあるモニターを叩き割ってもファイルを開けることは出来ない。
「刑事さん、俺、そのパソコンがインターネットに繋がってれば、パスワードがわかるかもしれない」
振り上げた右足が今にもモニターの脳天にネリチャギをかます寸前で参考人が口を開いた。
足がつったことを隠しながら席を譲ると、パスゲッターと画面に表示されていた。